「せんせー、すんません!」

トリミングサロンの扉を開けるなり、私は深く頭を下げた。

犬を抱えながら、息を切らして駆け込んだ私を迎えたのは、穏やかな笑顔のトリマーさん。

先生は何も責めることなく、「大丈夫ですよー」と優しく言ってくれた。

気がつけば、もう8年。

うちの犬は、幼いころからこの先生にトリミングをしてもらっている。

だから、犬にとっても、私にとっても、彼はただの「トリマー」ではなく、「先生」なのだ。

昨日、スマホが鳴ったのは昼前だった。

「今日はトリミングの日でしたけど、どうされますか?今からでも大丈夫ですよー」

画面に表示された名前を見た瞬間、「やってもーたー」と思った。

完全に忘れていた。

ちょうど犬と散歩に行こうとしていたが、そんな場合ではない。

急いでサロンに向かった。

心の中で「悪いことしたなー、すんません」と何度も唱えながら、やっと到着。

「せんせー、ごめんね。完全に忘れてた。すんません!」

私の焦りをよそに、先生は「大丈夫ですよ」と笑顔で迎えてくれた。

その優しさが逆に申し訳なくて、さらに深く頭を下げた。

私はこのトリマーさんのことを「先生」と呼んでいる。

正式な資格を持つプロフェッショナルであることはもちろん、犬にとっても、飼い主にとっても「先生」のような存在だからだ。

トリミングの技術は申し分ない。

それだけではなく、先生の手にかかると、うちの犬はいつも満足そうにシッポを振る。

毛並みが整うと、まるで自分でも気分が上がったかのようにジャンプする。

その姿は「今日も先生にカッコよくしてもらったぜ」と言わんばかりだ。

犬にとって、トリミングは楽しいことばかりではない。

知らない人に体を触れられるのが苦手な犬もいるし、バリカンの音やシャンプーの水が怖い子もいる。

でも、うちの犬は先生のもとへ行くと、先生に飛びついて先生のもとから離れない。

コッチを見向きもしない。

「オレのおかげで先生に会えるんだぞ」と言いたくなる。

「嫌がることもたくさんするんですけどね~」と犬をなでながら笑う先生は、私にとっても「先生」だ。

耳の中がかぶれていますよ、と教えてくれたり、

薬を持って行けば耳の中に薬を塗ってくれたり、

あと、チンコの横がかぶれていた時も教えてくれた。

先生は犬のちょっとした変化も見逃さず、的確なアドバイスをくれる。

先生の言葉には、経験と知識、そして犬への深い愛情が詰まっているのだ。

今回のように、私がうっかり予約を忘れても、先生はイヤな顔ひとつせず、穏やかに受け入れてくれた。

忙しい中、相手のミスを責めることなく、落ち着いて対応するその姿に「本当に信頼できる人」とはこういうものなのだと実感する。

技術が優れているだけじゃ、プロとはいえない。

相手の立場に立ち、長く信頼関係を築いていくこともまた、大切な要素なのだろう。

うちの犬が先生に飛びついて離れないのも、私が安心して任せられるのも、

彼が「ただのトリマー」でななく、「犬と飼い主の両方に寄り添うプロフェッショナル」だからだ。

8年という月日はあっという間だった。

犬との生活も、先生との付き合いも、気づけば日常の一部になっていた。

あなたにも、長年付き合ってきた「先生」のような存在はいるだろうか?

それは美容師かもしれないし、かかりつけの医師かもしれない。

あるいは、子どものころからお世話になっている習い事の先生や、近所の焼き鳥屋のおじさんかもしれない。

人との関係は、年月を重ねるほどに「お客様とサービス提供者」の枠を超えていく。

だからこそ、私はこれからも先生に犬をまかせるし、犬も先生のところに行くことを喜ぶだろう。

次回は、ちゃんと忘れずにトリミングに連れてゆく。

先生に迷惑をかけないためにも。

そして、犬が大好きな先生のもとで楽しく過ごすためにも。

今日も今日とてやきとりです。

いつもありがとうございます。