黒いハットをかぶった長身のイケメンと、スラリとして笑顔の素敵な女性。
ふらりと来店された瞬間、
「コレは、どう見てもこの辺の人じゃないな。」
「絶対に、田舎の人じゃないな。」
そう思った。
東京あたりから観光で気晴らしに来たのかな。
そんな第一印象だった。
注文も小気味いい。
焼き鳥を次々と頼み、ハイボールもテンポよく飲み干す。
「さすが、都会人は飲み方が違うな~」と、こちらも少し気が引き締まる。
そして、ふと思った。
「オシャレな人は室内でもハットはかぶるもんなんだな」
「かゆくならないのかな」
「邪魔にならないのかな」
「もしかして、ハゲてたりして」
いやいや、せっかく来てくれたお客さんのことをそんなイジワルな想像をするのはヤメようぜ、と自分に言い聞かせたその時。
「すみません、このハイボール、炭酸がぬけています」
ガ――ン、きた、クレーム。
「え、うっそ、本当ですか?すんません、すぐに取り替えます」
さっき開けたばかりの炭酸だったが、もう一本新しく開けて作り直す。
「都会の人って敏感なんだな」
そう思った。
「こちらは、どうですかね、大丈夫そうですかね」
「うん、大丈夫」とニコリ。
そのやりとりがキッカケで、少しずつ会話が生まれた。
「もしかして、お店ひとりでされているんですか?」
「いえいえ、奥にひとりいますよ」
「へぇー、でも大変そうですね」
話し方も柔らかくて、とても感じがいい。
クレームから始まる会話って、意外と、距離が縮まるもんだな。
その後も「タバコ、ここで吸ってもいいですか?」「代行呼んでもらえます?」と、自然とコミュニケーションが増えていった。
そして、お会計のとき。
僕はもう確信していた。
この二人は絶対に、東京から来た観光客なんだ、と。
で、最後に聞いてみた。
「どちらから来られたんですか?」
すると、彼はこう答えた。
「鹿児島です」
「ハイッ!?」
「鹿児島から鹿児島に来ました、田舎から田舎に来たんですよ、へへへ」
まさかの鹿児島県民。
思わず笑いそうになった。
都会っぽさをまとった二人が、じつは鹿児島県民だった。
そう考えると、なんだかとても親近感が湧いてきた。
鹿児島県の良く知らない街を、鹿児島県民がチョッと特別な気分で楽しむ。
その選択肢のひとつにうちの焼き鳥屋があったのだとしたら、それは至極、うれしいことだ。
黒ハットのイケメンと、笑顔の彼女。
昨夜は鹿児島の指宿で、少しだけ非日常を楽しんでくれて、ありがとう。
今日も今日とてやきとりです。
いつもありがとうございます。