「お客さんの忘れ物で、いちばん困るのってなんですか?」
そんな質問を受けたら、焼き鳥屋のオヤジとしてはこう答えたい。
第3位:マスク
第2位:鍵
第1位:財布
……そして、“論外”としては「記憶」だろう。
なにしろ少し前には、酔っ払ったお客さんがテーブルにおしっこした事件まであったんだから。
そんな夜は、「まぁ、そんなこともあるわな」で済ませるしかない。
……ホントは済まないけどね。笑
とはいえ、怒ってもしょうがないので、笑い話のネタとして使わせてもらっている。
それくらい、酔いと忘れ物は、いつだって夜とセットでやってくるのだ。
「忘れ物ベスト3」と、“あの静けさ”について。——焼き鳥屋に宿る、夜のドラマ
昨夜の個室の予約の団体さんの話。
早い時間から閉店時間ギリギリまで、みなさん楽しそうに過ごしてくれて、「美味しかったですー!」「遅くまでありがとうございました!」と、笑顔で帰っていった。
やれやれ、今夜も無事に終えることができたな、そんなことを思いながらグラスを下げ、皿を片づけ、ふとテーブルの下を見ると….
そこにポツンと落ちていた、ひとつの”鍵”。
「うわ、でた!もう」と、声にならない声がもれる。
でも、鍵ってやつは、家のドアを前に立つその瞬間まで気づかれない。
つまり、いちばん「連絡が遅れてくる」忘れ物なんだ。
「……こりゃ、明け方に電話が鳴るな」
「どうせなら、早朝の方がまだマシなんだけどな」
そう思いつつ、片づけをしていたら、案の定、店の電話が鳴った。
「よかったー、早めに気づいてくれて」と思った。
「すみません、先ほど個室を使わせてもらった者ですけど….」
「あっ、鍵ですよね、ありますよ!」
「よかった!いまから歩いて向かうんですけど、30分くらいかかりそうです。大丈夫ですか?」
その瞬間のぼくの心の声はこうだ。
(さ、三十分….!?マジかよー、でも、まぁ….しゃーないか….)
「….だ、大丈夫ですよ」
とっさに口から出たけれど、心の奥に広がったのは”なんとも言えない後味の悪さ”だった。
片づけながら焼酎をがぶ飲みしてたけど、一気に酔いがさめたような気がした。
でも——。
酔って帰って、鍵がないことに気づいたときの、お客さんの気持ちを想像した。
「はあ……やっちまったな」って、きっと思ったと思う。
そのあとで「すみません」と電話して、
夜道を30分かけて鍵を取りにくるって、けっこうなエネルギーだ。
ふと思った。
ぼくが酔ってなければ、きっと届けてあげてただろうな。
でもそのときはもう焼酎を飲んでて、ほろ酔いだった。
正直、早くシャワー浴びて寝たかった。
どっちも、ちょっとしんどい。
でもまあ、そんな夜もある。
とくべつなことはなにもなかったけど、
誰かの「うっかり」と、誰かの「まあいいか」で、
なんとなく、やり切った気がした。
今日も今日とて、やきとりです。
いつもありがとうございます。