焼き鳥屋のカウンターには、酒と煙と、それぞれの「小さな美学」が漂っている。
酔っぱらって陽気になるヤツ、しみじみ語り出すヤツ、急に歌い出すヤツ。
でもときどき、妙に“カッコつけたがるヤツ”が現れる。
そんなある夜、いつものように飲んでいた常連チュルが、カウンター越しにぽつりとつぶやいた。
「カッコつけるって、そういうことじゃねぇよな」──常連チュルが見抜いた“お冷男”の正体
チュル:
「オヤジ、昨日のあのデカいヤツ、見てたぞ」
オヤジ:
「見てたか。いやぁ、なかなか味のある二人組だったろ」
チュル:
「うん。細い男とデカい男。見た感じ、あれ上下関係あるな」
オヤジ:
「たぶん職場の先輩と後輩か、社長と従業員やろな。で、注文がさ──」
「たたき、串盛り、サラダ、枝豆、肉巻きおにぎり……で、カルピス1」
チュル:
「2人で1杯!? って思ったけど、マジでそれだけだったんだな?」
オヤジ:
「そう。で、出したら案の定、『お冷くださーい』って」
チュル:
「焼き鳥屋でお冷スタートかよ。しかもカルピス飲まずに水って、どんな序章だよ」
オヤジ:
「その後もずーっと『食いきれるかな〜』とか言いながら腹さすってな」
「“オマエは女子か”って心の中でツッコんだよ」
チュル:
「ははは。けっこうキてんな、そいつ」
オヤジ:
「極めつけはな。お冷のおかわり。しかも2回目で、ピッチャーごと持ってったわ」
チュル:
「気前いいな、お冷だけ」
オヤジ:
「そしたら、ストローでチュー……だよ。ストローで水をチューだぞ?」
チュル:
「……それは、ダサいなぁ」
オヤジ:
「細い方はな、ちょっと恥ずかしそうに下向いててさ。なんか気の毒でな」
チュル:
「で、オチは?」
オヤジ:
「お会計のときに出たのよ、名ゼリフが」
チュル:
「来たな。どんな?」
オヤジ:
『いいよいいよ、メシ代くらいオレが出すよ』って」
チュル:
「なるほどねー。そういうことか」
オヤジ:
「わかったろ? あれ、カッコつけたかったんだよ。
でも、飲み物代はケチって、お冷。カッコつけるって、そういうことじゃねぇよな」
チュル:
「ほんとの“カッコよさ”ってさ、見えないとこでちゃんとしてるヤツじゃん」
オヤジ:
「だよな。俺だったら、お冷じゃなくて、せめてウーロン茶頼むね」
チュル:
「それな。せめて、茶くらい頼めって話よ」
オヤジ:
「だからな、今度いきなり『お冷くださーい』って言われたら、こう言おうかと思ってる」
チュル:
「お、なんて言う?」
オヤジ:
『そんなメニューは、ございません』ってな」
チュル:
「わはは!それ、もう貼っとけ、メニューの横に!」
カウンターの向こうには、いろんな“美学”が転がってる。
でも、見せかけのカッコよさより、ふつうに笑って酒が飲めるヤツが一番カッコいい。
今日も今日とて、やきとりです。