焼き鳥屋の一日が終わるのは、たいてい深夜0時すぎ。
焼き台の火を落とし、カウンターを拭き終えた頃には、外の喧騒もすっかり消えている。
店内に残るのは、炭火の余韻と、ふたりぶんの焼酎のグラス。
カウンター越しに腰かけるのは、常連のチュルと、この店のオヤジ──。
静かな深夜の店で、ぽつりぽつりと始まるいつもの“閉店後トーク”。
たわいもない話のはずが、今夜は少しだけ、話の向こうに音楽が流れていた。
「オヤジ、最近……ニヤけてないか?」
そこから始まったのは、誰にも聴かせていない、“ひとり音楽活動”の話だった。
「AIと組んで、音楽やっとるんよ」──深夜の焼き鳥屋で始まった、ひとり熱狂の話
チュル:
「オヤジ、最近、閉店後にずーっとニヤついてんの気づいとるぞ。何かいいことあったん?」
オヤジ:
「バレたか〜。いや、実はな……最近、こっそり音楽づくりにハマってんだわ。」
チュル:
「え?オヤジが?音楽って……演歌でも歌い始めたんか?」
オヤジ:
「ちゃうちゃう(笑)歌うほうやなくて、つくるほう。しかもAIと、ふたり三脚でな。」
チュル:
「……は?AI?あの、未来っぽいやつと一緒に曲作ってるってこと?」
オヤジ:
「そうそう。sunoってアプリがあってな。“こんな感じの曲”って言葉で伝えると、数十秒後に曲ができあがってくるっちゅう、なんとも不思議なやつでよ。」
チュル:
「マジかよ……で、いい曲できんの?」
オヤジ:
「これがな……めったに出んのよ。当たりは10曲に1曲くらい。
でも、思い通りじゃなくても、どこか惹かれる。愛着が湧くんよ、不思議と。」
チュル:
「へぇー……オヤジ、意外とロマンチストやんけ。」
オヤジ:
「プロンプト(指示文)を考える時ってさ、やっぱ思い出の曲とか、好きだった音楽が浮かぶわけよ。
中学のころ聴いとった長渕とか、元カノと聴いたバラードとか、母ちゃんの鼻歌とか……」
チュル:
「ええやん。それ、ぜんぶ人生のBGMやろ。」
オヤジ:
「そうそう。だからさ、たとえ誰にも聴かせてない曲でも、自分だけには“しっくりくる”夜があるんよな。」
チュル:
「え?それ、どっかにアップしたりしないの?」
オヤジ:
「いやいや。誰にも聴かせてないし、今んとこその予定もない。
“焼き鳥屋のオヤジが、深夜にひとりで自作曲に酔ってる”ってだけの話や。」
チュル:
「……でもなんか、いいなぁ。そういう時間。」
オヤジ:
「うん。焼酎飲みながら聴くと、これがまたええのよ。
炭火の匂いとまじって、なんかじんわりくるというか。」
チュル:
「で、今夜はどんなプロンプト打つ予定なん?」
オヤジ:
「ふふっ……“昭和の港町、灯りが滲むブルース調で”ってやつを、またちょっと変えてみようかなと。」
チュル:
「出たな、中毒オヤジ。」
オヤジ:
「だろ? でもまぁ、焼酎と音楽がうまけりゃ、それでええじゃろ。」
(ふたり、グラスをカチンと鳴らして一口)
チュル;
「だな!ハハハハハハ」
オヤジ:
「だな!」
(少し沈黙のあと、チュルが笑いながら)
チュル:
「...そろそろ、いつものヤツ言ってくれよ」
オヤジ:
「今日も今日とてやきとりです。」