「大人2名、子ども3名なんですけど、個室あいてますか?」
「あいてますよー」
「行ってもいいですか?」
「ハイ、ぜひ来てください」
電話の向こうで、ちいさな笑い声が聞こえた。
夕方、電話口から若い女性の声。
個室の予約だった。急いで席を整えて、エアコン入れて、あとは来店を待つばかり。
焼き台の火を整えながら
「子ども連れってことは...鶏もも串多めかな」
なんて想像していた。
ほどなくして、ファミリーがやってきた。
まだ小学校に上がる前くらいの、かわいらしい女の子が先頭を歩いていた。
お父さんもお母さんも若くて、ほんわかした感じ。
生ビールを頼んだお父さんと、ノンアルビールを頼んだお母さん、子どもたちはソフトドリンクで乾杯。
ほどなくして焼き鳥の注文が入った。
串数が多かった。たぶん、30本近く。
55センチの長皿がはち切れそうになるくらい乗せて運ぶ。
個室に入ると「うわぁー!」と歓声があがった。
この声が、たまらなくうれしい。
そうそう、コレコレ、コレを待ってました!もっとこういうのくださーい、と思う。
追加のドリンクを持って行くと、焼き鳥を囲んで写真を撮っていた。
こういう瞬間を見るたびに思う。
焼き鳥屋をやっていて、「しあわせだなぁ」と思うのは、こんなふうに笑顔が広がる場面に出くわしたときなんじゃないかと。
そうしてお父さんのハイボールを運んだときには、長皿には何も残っていなかった。
さて、問題はここからだった。
お会計のとき、そのファミリーは「商品券でもだいじょうぶですか?」と聞いてきた。
出されたのは、指宿商工会議所が発行している地域商品券。
この商品券、正直、扱いづらい。
紙質も厚く、ツルッとしていて、重なっていると数えづらいのだ。
ぼくは、もともと数字に弱い。
おまけに乾燥肌で、手はカッサカサだ。
指を湿らせながら、ゆっくりと一枚ずつめくって数えていく。
「いちまい、にまい、さんまい、、、じゅうさんまいか」
「念のためにもう一度」
「やっぱり、13枚で間違いないよな」
ファミリーが個室から出てくる。
「やきとり、めっちゃ美味しかったです」と、お父さんもお母さんも笑顔で言ってくれた。
それなのに、ぼくは言ってしまった。
「商品券、13枚ですね」
そのとき、ふたりの表情がすこし曇ったのがわかった。
「ん?」という顔。
だけど、ぼくがはっきりと「13枚です」と言い切ったことで、ご主人は現金で差額分を支払ってくださった。
営業が終わってから、ふと思い出した。
「なんであんなに不思議そうな顔をしてたんだろう...」
気になって、もう一度商品券を数え直してみた。
手を一回一回湿らせて、冷静に、ゆっくりと。
あらっ!!...23枚あるじゃん!
「えっ、マジで?23枚!?」
っていうことは、10枚分、つまり5000円分も多く受け取ってしまったことになる。
背中がゾワッとした。
「しまった、やっちまった...!」
すぐに電話をかけようと思ったけど、真夜中だし、そもそも予約のときに電話番号もひかえていなかった。
連絡先がわからない。
深夜、店の片づけをしながら何度も自分を責めた。
「なんで確認しなかったのよ...」
「どうしてご主人の前で数えなかったのよ...」
だけど、ジタバタしてもどうにもならない。
翌朝、決めた。
これは、インスタで呼びかけるしかない。
ぼくの声が届く可能性があるとしたら、そこしかない。
昨夜のお父さん、お母さん。
「ん?」「は?」という顔をさせてしまって、本当にごめんなさい。
商品券、23枚ありました。
大きく数え間違ってしまいました。
間違えすぎだろっていうくらい間違えました。
もしこの投稿をご覧になっていたら、どうか連絡いただけませんか?
5000円、返金させてください。
もちろん、お金の問題もあります。
でも、それよりもーー
あの楽しい時間の最後に、ぼくが小さな「ん?」を渡してしまったことが、ただただ悔しいんです。
やきとりを囲んで笑ってくれたあの時間に、ほんのわずかでもモヤモヤを残してしまったことが、、、申し訳なくて、情けなくて。
だから、できることなら、あの笑顔にもう一度「ありがとう」を。
そして、最後に「ごめんなさい」を、ちゃんと返したい。
このお店をやっていて、うれしいこともたくさんあるけど、こうやって反省させられることも、やっぱりある。
今日も今日とて、やきとりです。
いつもありがとうございます。