オヤジ(串を返しながら)
チュルさ、聞いてくれよ。
ついにエアコンがぶっ壊れたんよ。しかも、よりによってこの夏のピークにさ。
チュル(ジョッキを持ちながら)
はぁ〜〜それはまた最悪のタイミングだなぁ。
あれ?この前もなんか調子悪い言うてなかったっけ?
オヤジ
そうそう、2週間くらい前からな。だましだまし使ってたけど、もう限界だった。
なんせ元カミさんとまだ一緒に住んでたころに買ったやつでな、かれこれ20年モノよ。
チュル
え!20年!?よく働いたなぁ、それ。殿堂入りだろ。
オヤジ
ほんとにな。
でな、さすがにエアコンなしはキツいから、電気屋行ってきたんよ。
そしたら今のエアコンって、フィルター自動で掃除してくれるんだぜ。
しかも思ったより安くてさ、パパッと決めた。
チュル
おお、最近の家電はすごかねぇ。うちの嫁さんも「ルンバに掃除教えてほしい」とか言ってたわ。
オヤジ(ニヤリ)
あー、ルンバもいたいた。なんか犬小屋みたいなハウスに戻るやつ。
それ見ながら店内ブラブラしてたらさ——止まったんだよ、足が。
チュル
ほう?
オヤジ
マッサージチェア。
黒くてツヤツヤで、ドーンと構えてるやつ。
値段もまぁ、それなりにしてたけどさ、そこでふと想像しちゃったんよ。
うちの母が、それに座ってテレビ見ながら笑ってる姿を。
チュル(表情がやわらぐ)
あぁ〜…なんかわかるわ、それ。
オヤジ
最近よく言うのよ、「もう後がないからねぇ」って。
それ聞くたびに、なんかモヤモヤしてたんだけど、
あの椅子見て、「これだ」って思っちまったんだよな。
チュル
清水寺ばりに飛び降りたってワケか。
オヤジ
そうそう、クレジットカードでエイヤーっとな。
帰りの車ん中でな、なんかスッキリしてたんよ。
そしたら、母から電話かかってきて、「アスパラ買ってきてー」ってさ。
チュル
アスパラ!?マッサージチェア買ったあとのリクエストがアスパラって(笑)
オヤジ(苦笑い)
そうなのよ。でな、つい言ったんよ、「いいマッサージチェア見つけたから買っちゃったよ〜」って。
チュル
で、で?「ありがと〜!」って涙ながらに感謝されたんだろ?
オヤジ
……ちゃうねん。
チュル
え?
オヤジ
「どうしてそんな無駄遣いするの!いらないから返してきなさい!」って。
……どこに感謝の“か”の字があるんや。
チュル(吹き出しながら)
まじか!最高のオチやんけそれ(笑)
オヤジ
まぁな。けど、母の「いらない」って、ほんとは「そんなお金使わなくていいのに」って遠慮なんよな。
自分に価値がないとか、迷惑かけたくないとか、そういう気持ちがあるんだろうなって思った。
チュル
あぁ……そういうの、あるな。
年取ってくると、素直に「ありがとう」って言えなくなるっちゅうか。
オヤジ(静かに)
うん。
マッサージチェアって、母のために買ったつもりだったけどな。
本当は、言えずにきた「ありがとう」とか「ごめんね」とか、
そういうのを、あの椅子に込めて渡したかったのかもしれん。
チュル(しみじみ)
……お前、けっこういいやつやな。
オヤジ
なにをいまさら。
まぁ、今んとこ一番楽しみにしてんの、母じゃなくて俺かもしれんけどな(笑)
チュル
でも、いつかその椅子で気持ちよさそうにテレビ見て笑ってたら、
それだけで報われるやんな。
オヤジ(うなずいて)
うん。
「いらない」って言うけどよ——
ほんとは、うれしいんだろ。俺は、そう信じてる。
そんな夜も、今日も今日とて、やきとりです。