オヤジ「チュル、髪切ったな?」

チュル「おっ、気づいた? 久々に床屋行ったんだわ」

オヤジ「だいぶサッパリしたな。どこ行ってんの?あの角の床屋?」

チュル「いやいや、いまは1500円のチェーン店よ。ササッと切ってくれるとこ」

オヤジ「お〜最近多いな。予約なしで行けるやつだろ?」

チュル「そうそう。楽でいいんだけどさ、ひとつ難点があってな」

オヤジ「なんだ、刈りすぎられたとか?」

チュル「それもあるけど… 担当が毎回ちがうのよ。ベテランのおっさんのときもあれば、若いピチピチのイケメンのときもある」

オヤジ「イケメンか(笑)娘と同じくらいの年か?」

チュル「まさにそれ。でさ、鏡の前に座ったら聞いてくるわけよ。“今日はどんな感じにされますか?”って」

オヤジ「まあ、それ聞くだろ(笑)で、どうした?」

チュル「いやぁ、言えなかったんだよ。“スッカスカになってるから、横と後ろをサッと切って、上はなるべく残してくれ”って」

オヤジ「ははは、スッカスカって自分で言うのは勇気いるな」

チュル「で、結局いつものやつ。“横と後ろ切って、上はすいてください”って言ったのよ」

オヤジ「それ、昔の合言葉じゃん(笑)オレもよく言ってた」

チュル「でしょ?でもさ、若い兄ちゃんが一瞬フリーズして、“それじゃわからないので…”って、ヘアカタログ出してきた」

オヤジ「あ〜時代やな〜」

チュル「カタログ見せられたけど、載ってるの全員20代前半のフサフサ男子よ。毛量もツヤも、まぶしいくらいにある」

オヤジ「参考にならん(笑)」

チュル「“え〜ないな〜ど〜しよ〜かな〜”って遠い目してたわ、オレ」

オヤジ「昔はそれで通じたよな。“だいたいこんな感じね”で切ってくれたもんだ」

チュル「そう。言葉足りなくても、空気で察してくれてた。『オレに任せとけ』って感じでな」

オヤジ「たしかに最近は、“この写真ですか?”“何ミリですか?”って細かいわな」

チュル「そうなんだよ。なんかもう、失敗できない社会になってる気がしてさ。みんな慎重に確認してくる」

オヤジ「レビューとかクレームとか、怖いんだろな。SNSの時代やもんな」

チュル「でもさ、髪型なんて、本当は“なんとなくわかってくれる”くらいがちょうどよかった気がすんのよ」

オヤジ「わかる。なじみの床屋で、『いつもの感じで』って言えた頃な。あれって、技術じゃなくて記憶なんだよな」

チュル「そうそう。で、カタログ見ても決められんくてさ、最終的に言っちゃったんだよ」

オヤジ「ん?なんて?」

チュル「“矢沢永吉みたいにして!”って(笑)」

オヤジ「ぎゃははは!昭和の切り札出したな!」

チュル「兄ちゃん、ハッとしてたよ。“あっ、あんな感じですね!”って笑顔で答えてくれたけど…」

オヤジ「通じたんか?」

チュル「いや、最終的に“おしゃれ坊主でいいんですね”って言われた」

オヤジ「それ、ぜんっぜん永ちゃんじゃねぇな(笑)」

チュル「まったく伝わってなかった。でもまぁ、悪くなかったよ。鏡見て、“これがいまのオレか”って思えたし」

オヤジ「そうそう。いまの自分に似合ってるのが一番やな」

チュル「カタログには載ってなかったけどな」

オヤジ「そりゃ、チュルは“カタログにいない男”だもんな(笑)」

チュル「ふふん、だろ?」

オヤジ「で、スッキリした頭で、今日も今日とて……」

チュル「やきとりです!」