炭火の赤い火がゆらめくカウンター。
今夜もオヤジとチュルの会話が始まる。
一組の観光客ファミリーをきっかけに、オヤジの心は昔の自分と今の時代へと飛んでいった。
オヤジ:「チュル、この前の夜さ、観光客っぽいファミリーが来たんだよ。電話で『大人2名子ども2名、今から行きます』って。温泉宿からだってよ。」
チュル:「いいですね、旅先で居酒屋。子どもたちの声とか響いてきそうじゃないですか。」
オヤジ:「そう思うだろ?でもな、入ってきた瞬間は元気だったんだよ。男の子と女の子が鬼ごっこしてさ。『おお、にぎやかになるな』って気合い入れて、焼酎をキュッと飲んだんだ。」
チュル:「オヤジ、そこで気合い入れるんすか(笑)。」
オヤジ:「ところがな…すぐに違和感がきたんだ。焼き鳥を置いても、ドリンクを出しても、『ありがとう』も『やったー』もなし。まるでオレ、空気だよ。」
チュル:「え、そんなことあるんすか?」
オヤジ:「よく見たらな、お父さんは眉間に皺寄せてスマホを凝視。お母さんも画面から目を離さない。子どもが『ねえ』って話しかけても、返事は上の空。父ちゃんはちょいちょい外にタバコ吸いに行く。子どもたちはお母さんの背中にくっついて、ぽつんとしとった。」
チュル:「ああ…なんか、さみしいっすね。」
オヤジ:「だろ?せっかくの旅行先だぞ。家族で居酒屋に来てんのに、会話よりスマホ、笑顔より画面って感じだった。」
チュル:「うわー、それはちょっと…」
オヤジ:「でもな、そこでふと昔のオレを思い出したんだよ。」
チュル:「昔のオヤジ?」
オヤジ:「子どもら乗せて車の中でタバコをスパスパ吸ってた父ちゃんだよ。『くさーい!』って言われても『いい匂いじゃん』なんて笑ってやめもしなかった。家族で外食しても『家族サービスだ』って言いながら、食ったら一人で飲みに行ってた。今思えばクソだな、オレ。」
チュル:「(笑)いや、笑っちゃいけないけど、オヤジのそういう自虐、リアルっす。」
オヤジ:「だからな、あのファミリーを見て責める気持ちはなくなった。むしろ胸がチクっとしたんだ。『オレも同じだったな』って。」
チュル:「なるほど…」
オヤジ:「スマホが当たり前になって十数年。便利だし、退屈しない。でもその代わり、目の前の人と向き合う時間が減った。ニュースでもやってたろ、親子の会話時間が年々減ってるって。」
チュル:「ああ、聞いたことありますね。」
オヤジ:「子どもが『今日ね』って話しかけても、親はスマホいじりながら『ふーん』。声は届いても、目線は合わない。そりゃ子どもだって『オレ、大事にされてないのかな』って不安になるさ。」
チュル:「それ、めっちゃ刺さりますよ。」
オヤジ:「数年後に残るのは『何を食べたか』じゃなくて『どんな会話をしたか』だ。焼き鳥の味は忘れても、『お父さんがしょうもない冗談を言った』とか『お母さんが笑いすぎて泣いた』とか。そういう時間が旅の宝物になる。……いや、ほんとはウチの焼き鳥も覚えててほしいけどな(笑)。」
チュル:「ははは、それは大事っすよ!」
オヤジ:「炭火焼き鳥があって、家族がいて、友だちがいて、会話がある。それが一番だと思う。」
チュル:「ですね。なんかジーンときました。」
オヤジ:「無言のテーブルに違和感を覚えた夜。あれは一組の家族だけじゃなくて、今の時代の姿なんだろうな。旅先の居酒屋は、家族の思い出の器。炭火の赤い光の下で、声を交わし、目を合わせる時間こそが旅を形づくるんだ。」
チュル:「うん、そう思います。で、オヤジ、今日も今日とて?」
オヤジ:「やきとりです。」