焼き鳥屋をやっていると、
人のドラマが一晩にいくつも転がり込んでくる。

笑い声の奥に、小さなため息が混じる夜もあれば、
誰かの恋のはじまりが煙の向こうで灯ることもある。

あの夜も、そんな一幕だった。

 

夕方、まだ外が少し明るい時間に、若い女性二人組がふらっと入ってきた。

「後から二人来るんですけど、空いてますか?」
「大丈夫ですよ」と答えると、顔を見合わせて手を叩き、嬉しそうに笑った。

その笑顔を見て、忙しくなりそうな予感がした。

ほどなくして、連れの男性二人が「おぅ!」と登場。
ダブルデートだろうか。若いっていいな、と思った。

焼き鳥の盛り合わせを出すと、「うあー!」と歓声が上がる。
焼酎ロックに酎ハイ、会話はどんどん弾む。

タレの甘い香りと、笑い声と、氷の当たる音。
店の中が、ひとつの舞台みたいになっていた。

そのうち、女性のひとりが言った。
「もうひとり増えるんですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ」と答えると、ほどなくして小柄で小顔のイケメンが現れた。

白いシャツをさらりと着こなし、静かに席に着く。
注文は酎ハイと皮一本。

ほとんどしゃべらず、時々笑みを浮かべてグラスを口に運ぶ。
一方、最初からテンション高めの男性二人は焼酎ロックをあおり、
いつの間にか呂律が怪しくなっていた。

「飛ばしすぎたな」と心の中でつぶやく。

場を温める炭火みたいな存在だったけど、
火力が強すぎると、すぐに燃え尽きてしまう。

閉店が近づき、他の客が帰って静かになると、
そのグループの笑い声だけが店内に響いていた。

「そろそろ閉店の時間ですよ」と声をかけようかと思った矢先、女性のひとりが財布を開きながら言った。

「お会計お願いします。」

指先でお札を数える、その横に影がすっと伸びた。

「ちょっ、待てよー。なにしてんの?」

小顔のイケメンだ。彼女の手をそっと押さえつつ、「これでイケる?」とスマホをかざす。

「大丈夫ですよ」とスマホでピピっと決済を済ませた。

すると、一瞬、スローモーションになったかのように彼女とイケメンは見つめあった。

彼女はニコッと笑ってぺこりと頭を下げて、小顔のイケメンはふふッと笑う。

会計も済んで「さぁ帰ろうか」という空気になった。

イケメンが軽く会釈をして店を出ると、女性たちも後を追った。

その背中をぼんやり眺めてたへべれけな男性二人組。

ハッとしたのか急に財布を広げて「いくらっすか?」と聞いてきた。

「あの男性にいただきましたよ」と答えると、二人はイケメンと女性二人の背中に目をやった。

その瞬間、二人は漫画のように「はー」と深いため息をついて俯いた。

おそらく彼らの心境はこうだったはず。

「全部、あいつに持っていかれたじゃん!」

笑いの主役が、一気に脇役に変わったように見えた。

ぼくはその光景を見て、まるで資本主義社会の縮図を見ているようだなと思った。。

場を盛り上げ、笑いを作ったのは彼らなのに、最後のおいしいところはお金を持ったものが持っていく。

努力よりも資本が勝つ。

汗よりもスマートさが評価される。

そんな現実を見せられたような気がした。

でも、もっと掘り下げてみると、そこには時代の矛盾も顔を出す。

女性が財布を出し、男性がそれを押さえる。
あの一瞬に、昭和と令和が同居していた。

「払う側=守る側」という物語は、まだどこかに生きている。
けれど、それを完全に否定する気にもなれない。

あのスマートな“ピピッ”の音の奥には、
たぶん「カッコよくありたい」という、
ささやかな男のプライドも混ざっていたからだ。

外に出ると、夜風が少し冷たかった。
ドアを閉めると、タレの香りが服に染みついていた。

今日も一日、よう焼いたなぁと思う。
世の中は、静かに支払った人が空気を変える。

でも、火を起こして場をあたためるのは、人の笑いだと思う。
だから、明日もまた、炭を起こそう。

今日も今日とて、やきとりです。