焼き鳥屋の夜は、忙しいときほど笑い声が響く。
けれど、本当に静かな夜にしか見えないこともある。
炭の火が小さくなって、煙がゆっくり漂う。
その時間だけは、オヤジとチュルの“本音の会話”が始まる。
チュル:「なあオヤジ、最近ちょっと店、静かじゃね?」
オヤジ:「おう。飲み放題コース、やめたんだよ。」
チュル:「マジで? あれ、けっこう入ってたろ?」
オヤジ:「入ってた。けど、入ってたのは売上だけで、利益は全然だ。」
チュル:「ほう……。」
オヤジ:「税金ばっか増えるし、人を雇えば人件費で消える。
夜中に伝票打ちながら、“俺、誰のためにこんなに働いてんだろ”って思ったんだよ。」
チュル:「……それは重いな。」
オヤジ:「そう。めっちゃ頑張ってるのに、なんでだ?って思った。
そしたらもう、なんか中で“パキッ”って音がした感じだったな。」
チュル:「骨じゃなくて心が折れたか。」
オヤジ:「そうそう。で、団体の予約も、飲み放題もやめた。
売上は下がったけど、心は軽くなったよ。」
チュル:「へぇ。オヤジが“軽い”とか言うの、初めて聞いたわ。」
オヤジ:「お客さんの“うまい”が、ちゃんと聞こえるようになったんだよ。
数字も大事だけど、その前に“何に対してうまいって言われてるのか”が大事だなって思った。」
チュル:「なるほどねぇ。最近の若い子も、そういうこと考えられる人少ないよな。」
オヤジ:「若い子だけじゃねえんだよ。
“仕事は仕事ですから”って淡々と働く四十代の兄ちゃんもいりゃ、
スマホいじって時間潰してるパートさんもいた。」
チュル:「あー、いるな。時給稼ぎのプロみたいな人。」
オヤジ:「そう。悪気はない。でも“誰かに喜んでもらう”って気持ちがない。
働くって、時間を埋めることじゃねぇと思うんだ。」
チュル:「そりゃあ、そうだな。」
オヤジ:「だから決めた。“仕事を目的にしてる人”は雇わない。
お金のためだけに動く人には、焼き鳥の香りを通して誰かを笑顔にする喜びなんて伝わらねぇ。
結局、そういう人を雇うほど俺がしんどくなる。」
チュル:「なるほどねぇ。
つまり“やめる勇気”を持ったってわけだ。」
オヤジ:「そう。改革ってのは、やることを増やすんじゃなくて、“何をやめるか”を決めること。
ムリをやめて、ムダをやめて、“誰の笑顔を増やしたいか”を考える。
それができれば、たとえ売上が減っても店はちゃんと息をしてる。」
チュル:「いいこと言うじゃねぇか。
なんか、最近のオヤジ、哲学者みたいになってきたな。」
オヤジ:「ハハ、そりゃあ焼き鳥哲学よ。
数字を追うんじゃなく、納得を焼くんだ。」
チュル:「納得を焼く……いいねぇ。
じゃあ、今夜もその納得、一本ちょうだい。」
オヤジ:「任せとけ。今日も今日とて、やきとりです。」