焼き台の前で炭火の煙にまみれてたら、チュルがひょっこり現れた。

「おう、オヤジ、今夜も忙しそうだな」

そう言いながら、ビールを一口。

煙の向こうでチュルの笑顔が見えた。

そこから始まった、“AIじゃ作れない夜”の話だ。

チュル「オヤジ、AIが焼き鳥焼く時代とか、来るんかな?」

オヤジ「あぁ、機械に焼かせりゃ焦げひとつないだろうな。でもな、あの“ヨカ晩だなぁ”って瞬間は、AIには無理じゃろ。」

チュル「出た、哲学モードやん。何かあったん?」

オヤジ「あったとも。ちょっと聞けよ。」

——

追加のドリンクが立て続けに入ってな、氷をガシャガシャ、ジョッキをサーバーに。
その間に、知らん間に外人の家族が立っとった。
デッカいお父さんと、ちっちゃくて可愛いお母さん、それにクリクリ目の赤ちゃん。

思わず『おぅ!』って声が出たんよ。
まったく気づかんかった。ドリンクづくりに集中しすぎてな。

チュル「あるある。厨房って世界と切り離された異空間だもんな。」

オヤジ「ほんとにな。『ちょっと待ってください』って慌てて席を片付けて案内したんよ。そしたら赤ちゃんがな、俺の顔見た瞬間に爆笑した。」

チュル「はははっ!オヤジの顔、ツボったんやな。」

オヤジ「かもな。思わず手ぇ振ってもうた。
で、二人はスマホでメニューを翻訳しながら笑っとった。
しばらくして、赤ちゃんが急に泣き出してな。ギャンギャンよ。」

チュル「まぁ、赤ちゃんやもんな。」

オヤジ「そうそう。で、お母さんがスマホの画面見せてきてさ。
“子どもが言うことを聞かなくなったので、また来ます”って翻訳アプリに出てた。」

チュル「うわ、丁寧やなぁ……」

オヤジ「お母さんもお父さんも深々と頭下げてな。
日本人でも、あんなに丁寧な人はなかなかおらん。
帰り際、赤ちゃんがもう一回笑ったんよ。
あれはな……“伝わった”って感じた瞬間だった。」

チュル「伝わった、か。言葉いらんやつだな。」

オヤジ「そう。焼き鳥屋やってると、“伝える”よりも“伝わる”瞬間がある。
それは言葉でも表情でもなくて、空気の震えみたいなもんだ。
炭の火と一緒に、人のぬくもりがふっと混ざるんよ。」

チュル「それ、詩人かよ……でもわかる。
AIは正確でも、ぬくもりまでは計算できんよな。」

オヤジ「そうなんよ。
AIが注文を取り、ロボットが運ぶ店も増えたけど、
“いい仕事”ってのは、効率よりも呼吸の中にある。
炭の前で汗かく音、ジョッキを置く音、笑い声。
それらが混ざって、“その夜だけの空気”ができる。」

チュル「いいこと言うなぁ。
効率には正解があるけど、ぬくもりには正解がない——やろ?」

オヤジ「お、チュル、よう覚えたな。」

チュル「そりゃもう、オヤジの口癖や。」

オヤジ「ははっ。
あの家族がまた来てくれたら、きっと赤ちゃんも少し大きくなっとるだろうな。
その成長をこの店で見られたら、それだけで“ヨカ晩”よ。」

チュル「AIがどう進化しようが、その笑顔まではプログラムできん。」

オヤジ「ほんとにな。
世界はAIでつながっとるけど、隣の席で“ヨカ晩なぁー”って笑い合える夜が、
一番の贅沢かもしれん。」

チュル「……ヨカ晩なぁー。」

オヤジ「おう。今日も今日とて、やきとりです。」