焼き鳥屋って、夜のにおいと一緒に“人の本音”が漂う場所だ。
炭がパチパチとはぜる音を聞きながら、今日もカウンターで、オヤジとチュルのいつものやり取りが始まった。
テーマは――支払いと、呼吸。
オヤジ「チュルよぉ、今月末の支払いまであと4日なんだよ…」
チュル「お、またギリギリの攻防っすか?」
オヤジ「攻防っていうか、もう戦況不利もいいとこだ。息が苦しくなってきたもん」
チュル「あー、わかるわかる。支払いって、呼吸止まるよな」
オヤジ「そうそう。だから今日は“焼き鳥の呼吸・壱の型”を発動したんだよ」
チュル「なんすかそれ(笑)」
オヤジ「4秒吸って、4秒止めて、8秒吐く。鼻から吸って口から吐く。ほら、ちょっと落ち着いてくるだろ?」
チュル「いや、焼き鳥屋でヨガする人初めて見たっす」
オヤジ「笑うなよ。呼吸ってすげぇんだぞ。さっきまで“36万足りねぇ”って胃がキュンキュンしてたのに、だんだん『まあいっか』って思えてきた」
チュル「現実は変わってないのに?」
オヤジ「そう。残高も減ってないし、誰も現金放り込んでくれちゃいねぇ。けどな、呼吸が整うと、心の中にちょっと空気が入るんだ」
炭をあおぎながら、オヤジがぼそっと言う。
オヤジ「焦りってのは、未来を見すぎることなんだよな。呼吸は“いま”に戻るスイッチだ」
チュル「いいこと言うじゃないっすか。オヤジ、なんか今日ちょっと“全集中”してますね」
オヤジ「おう、“鬼滅の刃”の作者は天才だぞ。呼吸ひとつで戦うなんて、あれ、ただの漫画じゃねぇ。人間の真理だ」
チュル「なるほど。息を止めると、心も止まるってことっすね」
オヤジ「そう。焦ってるときって、だいたい息止めてんのよ。だから一回吸って、吐く。それだけで人生リセットできる」
チュルがグラスを回しながら笑う。
チュル「支払いの呼吸っすね。俺も給料日前は全集中しようかな」
オヤジ「やってみろ。支払いも、焼き鳥も、人生もリズムだ。吸って、吐いて、また吸う。売上も上がったり下がったり、呼吸と同じよ」
チュル「ってことは、今は息を吐く時期ってことっすか?」
オヤジ「そうだな。どうせまた吸うときがくるさ」
オヤジは炭を転がしながら、静かに笑った。
オヤジ「結局な、36万どうにかなるかはわからん。けど、できることはやった。
“やれることはやった”って思えれば、それで十分だ――ということにしておこう、、笑」
チュル「いいっすね、その笑い。人生、最後は“まあいっか”でちょうどいい」
オヤジ「焦りながら生きるより、呼吸しながら生きたいもんだな。支払いも、人生も」
オヤジは串をひっくり返しながら、ポツリとつぶやいた。
オヤジ「今日も今日とて、やきとりです。」