焼き鳥屋をやっていると、
つくづく思うことがある。

人って、追い詰められているときほど、
“助かる道”が見えなくなる。

でも、不思議なことに、
「もう無理や」って開き直った瞬間に、
スーッと風が通ってくる。

その風が、人生をひっくり返す。

あの日、ぼくとチュルが話していたように。

■ カウンター越し、焼き鳥の煙の中で

チュル「オヤジ、この前のnote読んだけどよ……
水道代160万ってマジなん?」

オヤジ「おう、マジじゃっど。
人生でいちばんアホやった時期やな。」

(串を返しながら苦笑い)

チュル「160万て……車買えるぞ。」

オヤジ「軽なら新車やな。
自分でも何しとったんか、もうわからん。」

■ “集金チーム”にブチ切れた若い頃のオヤジ

オヤジ「あの頃は毎日が限界やってな。
心に余裕なんて1ミリもなかった。」

チュル「市役所の人、優しいやん?」

オヤジ「優しいから敵に見えんねん。
心が荒れとったらな、
善意すら刺さるときあるやろ。」

(自分でも胸が痛そうな顔)

オヤジ「週に何回も4人で来よんねん。
集金にやぞ?」

チュル「四人て……守備隊かい。」

オヤジ「怖かったんちゃうか、俺のこと。
なんせ毎回逆ギレしてたからな。」

チュル「え、なんて言うてたん?」

オヤジ「『暇なん?集金で4人も要らんやろ』
『止めるなら止めてみーや!』やて。」

チュル「……いやそれ普通に怖いわ。」

オヤジ「今思い出しただけでクーーーって唸るわ。
過去の自分に正拳突きや。」

■ 追い詰められた人間は“どうでもよくなる”

オヤジ「ほんま、毎晩焼酎飲みながら
『もう無理やな…』
『ここまでか…』って呟いててな。」

チュル「泣きそうなるやつや。」

オヤジ「誰かに『頑張れ』言われとったら
泣いてたかもしれん。」

(焼き場の火がパチッと鳴る)

オヤジ「でもな、不思議と
“投げやりの瞬間”って心に隙間ができんねん。」

チュル「隙間?」

オヤジ「そう。
パンパンに張り詰めてた感情が
すこーし緩んで、
そこに風が通る。」

■ 酒の席の“たった一言”で人生が変わった

オヤジ「でな、ある日友達と飲んでて…
愚痴っとったんよ。」

チュル「『160万借りときゃよかった』とか言うやつ?」

オヤジ「そうそう。
ほんで友達が突然言うねん。」

オヤジ(真似しながら)
『過払金請求してみたら?』

チュル「え、それで?」

オヤジ「頭の中で“カチッ”て音した。
真っ暗なトンネルで、
遠くに懐中電灯見つけたみたいな感覚や。」

チュル「希望のやつやな。」

オヤジ「あのとき初めて気づいたんよ。
“不安でパンパンの脳みそは
焦る情報しか拾わへん”て。」

■ 230万円が返ってきた瞬間

チュル「で、請求したん?」

オヤジ「した。半信半疑やったけどな。
ほんならまさかの……」

(間をおいて)

オヤジ「230万返ってきた。」

チュル「うそやん!!」

オヤジ「俺も『よっしゃーー!!』って
店でガッツポーズした。」

チュル「近所の人ビビるわ。」

■ 札束持って水道課へ

オヤジ「そっからは早かったな。
札束ポケットに突っ込んで
水道課一直線よ。」

チュル「男気やな。」

オヤジ「窓口の人の顔、忘れへん。
驚いて、戸惑って、
最後に笑顔になってな。」

オヤジ(静かに)
『ありがとうございました』

って言われたとき、
胸の奥があったかくなった。」

チュル「あかん、泣きそう。」

■ 大逆転の正体は“心の余白”

オヤジ「なんで大逆転できたんか。
運や偶然ちゃうねん。」

チュル「ほな何?」

オヤジ「“力が抜けたから”。
それだけや。」

(焼き鳥を丁寧に並べながら語る)

オヤジ「焦りすぎると視野が狭くなる。
不安が強いと、
人間は“悪い情報”しか拾わんようになる。
だから抜け道が見えへん。」

チュル「ほう……」

オヤジ「でも『もう無理や』って
肩の力抜くと、
ほんの少し、心に隙間ができる。」

チュル「その隙間に追い風が入る、と。」

オヤジ「そういうこっちゃ。」

■ チュルの小声

チュル(小声で)
「……オヤジ、なんや今日めっちゃカッコええな。」

オヤジ「やかましいわ。焼き鳥食え。」

■ 最後のまとめ

オヤジ「もしどん底のやつがおったらな。
まずは“力を抜く”って伝えたい。」

チュル「無理して立て直そうとせんでいいってこと?」

オヤジ「そう。
どん底は“ゼロに戻る場所”や。
そこで深呼吸すればいい。」

チュル「なるほどなぁ……
オヤジの230万封筒って、人生の伏線回収やったんやな。」

オヤジ「たぶんな。
だから今日も今日とて……」

チュル「……やきとりです、やな?」

オヤジ「そうや。やきとりです。」