焼き鳥屋をやっていると、
毎晩いろんな人間模様がカウンター越しに流れていく。
忙しい日もあれば、
しんどい夜もある。
そんな日々の中で、
何気ない“ひと言”が、
不思議と心を動かしてくれることがある。
ある夜、常連のチュルがカウンターに座り、
ぼくの話をじっと聞いてくれた。
そこから始まった、
“言葉の温度”の話をしようと思う。
オヤジ「チュル、言葉ってさ……ほんと不思議な力持っちょるよな。」
チュル「お? いきなりどうした。誰かお客さんに褒められたか?」
オヤジ「いや、褒められたってほどでもねぇけどさ。
『大丈夫ですよー』とか
『ゆっくりでいいですよ』とか
ほんの数秒で交わすやつあるだろ?」
チュル「あるある。あれで救われる夜、あるよな。」
オヤジ「そうなんよ。
汗だくで炭の前立っちょっても、
串の根っこが折れて慌ててるときでも、
ふっと肩の力が抜けるんよ。
あれは魔法や。」
チュル「客の何気ない一言のくせに、効くんだよなぁ。」
オヤジ「そう。
ただの挨拶みたいな言葉なのに、
背中スッと撫でられたみたいな気持ちになるときがある。
ほんと言葉の力ってすごか。」
チュル「けど、響かん夜もあるやろ?」
オヤジ「そこよ、問題は。
どんなに『頑張って』って言われても
心すり減ってるときは、
『いやいや頑張れんわ』って思うだけ。」
チュル「あるある。
『大丈夫だって』が一番大丈夫じゃねぇ夜もあるしな。」
オヤジ「そうなんよ。
焼き鳥なんか焼いてる場合じゃねぇ夜、普通にある。」
チュル「あ〜、わかる。
店の向こうから聞こえる笑い声だけ無駄に響くやつや。」
オヤジ「そう。
そんな日は、どんな言葉も忙しさと不安のあいだをすり抜けて、
心に残ってくれんのよ。」
チュル「人の心って、そんな簡単じゃねぇからなぁ。」
オヤジ「そう。
言葉だけで救える夜より、救えん夜のほうが多いかもしれん。
だからこそ、言葉の扱いにちょっと慎重になった。」
チュル「で、オヤジ。今日は何かあったんか?」
オヤジ「あぁ……あった。
そんなこと考えとった日のことよ。」
オヤジ「いつものようにスーパー行って、
洗剤コーナーすぎたところで
スマホが『ピロン』って鳴ってさ。」
チュル「ほぉ。誰からよ。」
オヤジ「インスタのDM。」
チュル「お前に!?珍しかぁ!」
オヤジ「そうなんよ。
普段DMなんか全然こんもん。」
チュル「で、なんて書いちょった?」
オヤジ「『思わずDMしてすみません』『めっちゃ共感します』って。」
チュル「へぇ。えらい直球やな。」
オヤジ「その後の文章がめっちゃ長文でよ。
相手の熱、バチバチ伝わってくんの。」
チュル「誰だったん?」
オヤジ「東京で移動販売の焼き鳥屋やってる人。」
チュル「東京から指宿の焼き鳥屋にDM!?すげぇなそれ。」
オヤジ「俺もビビったわ。
でも、うれしくてよ。」
オヤジ「読みよったらな、妙にリアルで、しかも俺と重なる部分だらけ。」
チュル「どんな?」
オヤジ「『月末の支払いでヒィーヒィー』
『どん底の年の瀬』
『自由を目指してる』
なんかこんなんよ。」
チュル「完全にオヤジやん。」
オヤジ「いやマジで。
“この人、オレと似てる”って思ったわ。」
オヤジ「でよ、DMの最後にこう締めてあった。」
チュル「なんて?」
オヤジ「
『自由になった暁には、指宿にオヤジさんの焼き鳥を食べに行きますね。』
って。」
チュル「……それは刺さるな。」
オヤジ「読んだ瞬間、
『よーーし、やるぞ!』って気持ちが湧いてきた。
胸がじんわりしてよ。」
チュル「言葉の力やなぁ。」
オヤジ「ほんとそう。
ぼくが日々noteに書いてる文章なんて
ただの“自分のメモ”のつもりやったのに、
どこかの誰かを動かしとった。」
オヤジ「思ったよ。
“温度のある言葉は、誰かの人生のどこかで灯りになる。”
って。」
チュル「名言出たな。」
オヤジ「カウンター越しの『美味しいです』も、
突然届くDMも、
『また来ますね』も、
全部おんなじや。」
オヤジ「温度のない言葉は風みたいに通り過ぎるだけ。
でも温度のある言葉は、
弱くなった心の炭に、もう一度火をつけてくれる。」
チュル「オヤジ、今日はキレてるな。」
オヤジ「焼き鳥を焼くのも、文章を書くのも、
誰かの“今日”を少しあたためるためなんかもしれん。」
オヤジ「やっぱ言葉ってすごいよな。
心の向きを変えてくれる。」
チュル「とはいえ、救えん夜もあるわな。」
オヤジ「それでも、温度のある言葉だけは大事にしていこうと思うわ。」
チュル「ほんならオヤジ、今日も焼くか。」
オヤジ「あぁ。
今日も今日とて、やきとりです。」