焼き鳥屋のカウンターって、
深夜になると“人生の話”がうまくなる。

煙が細く立ち上るその向こうで、
常連のチュルがぽつりと聞いた。

「オヤジ、孤高ってさ、どう思う?」

ぼくは焼き台の前で串を返しながら、
その言葉に、若い頃の自分の顔が浮かんだ。

「あぁ、チュル。
実はな……オレ、10代の頃の黒歴史の中に、
孤高のヒントがあったみたいでよ。」

そこから始まった“カウンターの夜語り”。

チュル「オヤジ、今日ちょっと聞きたい言葉があってよ。」
オヤジ「なんだ、急に真面目じゃねぇか。言ってみ?」

チュル「“孤高であれ”、ってやつ。」

オヤジは炭の上でジューッと音を立てる串を見つめながら笑った。

オヤジ「あぁ、あれな。なんか胸に響くんだよ。」
チュル「オヤジが?意外だな。」
オヤジ「意外かよ。オレも一応、孤独とか感じるんだってば。」

チュル「オヤジの孤独って、ただワンオペで忙しいだけなんじゃ?」
オヤジ「おいこら、雑な言い方すんな(笑)」

オヤジは串を返しながら続けた。

オヤジ「孤高ってのはな、“さみしい”と似てるけど違うんだよ。
孤独を孤高に変えられる人はな、むしろそれを燃料に前へ進める。」
チュル「なるほどな。オヤジっぽい哲学だ。」

一呼吸おいて、オヤジは急に遠くを見るような目になった。

オヤジ「チュル、オレな……10代の頃、美少年に憧れた時期があったんよ。」

チュル「は?」
オヤジ「その反応が正しい(笑)」

煙の向こうで、オヤジは懐かしそうに語りだした。

オヤジ「金八先生に“夏彦”っておったろ?
色白で陰があって、鋭い目ん玉でよ。すぐナイフ出すようなヤツ。」

チュル「あ〜いたいた。あの影のある役の。」
オヤジ「そうそう。あいつに憧れてなあ……『色白じゃないと美少年にはなれん』って本気で思ってた。」

チュル「オヤジ、地黒じゃん。」
オヤジ「黙れ(笑) その通りだけどな。」

オヤジは笑いながら、焼酎を一口飲んだ。

オヤジ「だから、母ちゃんのパック勝手に使ったり、
通販のスクラブでガリガリ顔こすったりしてよ。」

チュル「え!自分で美白チャレンジしとったん?」
オヤジ「ゴシゴシやりすぎて血出たけどな。」
チュル「いや危ないって(笑)」

オヤジ「でな、問題は髪よ。くせっ毛でクルクルのゴアゴア。」
チュル「あぁ〜、今想像できるわ。」
オヤジ「サラサラにしたくて床屋行って、こう言ったんよ。」

オヤジは串を置き、チュルの目を見て言った。

オヤジ
「“頭に穴を開けてください”って。」

チュル「…………え?」
オヤジ「だから、風が通ってサラサラになると思って。」
チュル「おまえ天才かよ(笑)」

オヤジも吹き出した。

オヤジ「床屋のおじさんも目ぇまんまるよ。
『穴を……開けるの?』って。」
チュル「そりゃそうだろ!!」

オヤジ「でもオレ真剣だから、『はい。風通したいんです』って言ってよ。」
チュル「なんの新技術やねん!」

オヤジ「翌日学校行ったらな…チュル、教室中が崩壊した。」

チュル「そりゃそうや!穴あき頭で来たんやろ?」
オヤジ「『はげてるよ!』って涙流して笑われた。」

オヤジは、悔しいでも恥ずかしいでもない、不思議な笑顔をした。

オヤジ「今思えばあれも、オレなりの“孤高”だったんよ。」

チュル「でもオヤジ、爆笑されて傷つかなかったん?」
オヤジ「いや〜あの友達がな、またクセ強くてよ。」

チュル「どんなヤツ?」
オヤジ「パンクロック大好きで、ライブの日は目の周りを口紅で真っ赤に塗るんよ。」
チュル「出た、そっち系か!」
オヤジ「“血を流してるイメージ”って言いながら真顔で電車乗る。」

チュル「いや、そっちが本物の孤高やん!」
オヤジ「そう。あいつも孤高やったんよ。」

チュルは笑いながら、しんみり聞いていた。

オヤジ「オレは鏡の前で白いやつ目指して自分削ってて、
あいつは血メイクで自分貫いててな。」

チュル「方向は真逆だけど……」
オヤジ「根っこは同じ。“自分の正解は自分で決める”。
それぞれがそれぞれの孤高の頂を登っとった。」

オヤジは串を皿に並べながら、ゆっくり言った。

オヤジ
「色白にもなれんかった。
サラサラヘアにもなれんかった。
美少年にもなれんかった。

でもなチュル。
10代のあの必死さが、いまのオレをつくっとるんよ。」

チュル「……オヤジ、なんか今日かっこいいぞ。」

オヤジ「あれは全部、孤高の練習やったんよ。
誰かに決められた正解じゃなくて、
自分のやり方で生きる練習。」

炭のはぜる音が、静かにカウンターに響いた。

オヤジ「だから今日も今日とて、やきとりです。」