焼き鳥屋をやっていると、
特別な日ほど、案外いつも通りだったりする。
昨夜はクリスマスイブ。
浮かれる気もなく、
でも気づけば、店は満席になっていた。
これは、
焼き鳥屋のオヤジと、
常連チュルがカウンターで交わした、
少し静かなクリスマスの話。
チュル
「オヤジ、昨日クリスマスイブだったっすよね?」
オヤジ
「そうやったなぁ。
終わってから気づいたわ」
チュル
「え、マジすか。
めっちゃそれっぽいお客さん多かったじゃないですか」
オヤジ
「駅前でイベントあったらしくてな。
カップルとか、夫婦とか、
ダンス帰りのファミリーとか」
チュル
「あー、あのヒップホップの子どもたちっすね」
オヤジ
「そうそう。
あの子らな、
焼き鳥できた頃には全員寝とった」
チュル
「それ、ある意味いちばん平和なクリスマスっすね」
オヤジ
「やろ。
正直、昨日は暇やと思っとったんよ」
チュル
「予約ゼロでしたもんね」
オヤジ
「AIアニメの勉強でもしよう思って、
パソコン開いた瞬間に
『こんばんは』や」
チュル
「フラグ立てましたね」
オヤジ
「今日は静かやろ、って日に限って、
店はだいたい、そうでもない」
チュル
「わかります。
人生もそんな感じっすよね」
オヤジ
「ほんそれやな」
チュル
「でもオヤジ、
昨日めっちゃテンパってたじゃないですか」
オヤジ
「テンパったけどな、
不思議と嫌じゃなかった」
チュル
「それ、いい状態じゃないですか」
オヤジ
「忙しい方がありがたい、って
何回も心の中で言うとったわ」
チュル
「伝票減っていくの、
ちょっと気持ちいいですよね」
オヤジ
「最後の一枚になったときな、
『よし、終わり見えた』って思った瞬間、
ファミリー来店や」
チュル
「クリスマスの神、試してきてますね」
オヤジ
「まあでもな、
ああいう夜、悪くない」
チュル
「閉店後、どうだったんすか?」
オヤジ
「座敷にゴロンよ。
片付けの前に、まず一回」
チュル
「オヤジあるある」
オヤジ
「目ぇ閉じたらな、
昨日来たお客さんの顔が
順番に浮かんできてな」
チュル
「若いカップル、夫婦、ファミリー、
おひとり様…」
オヤジ
「そうそう。
初めての人も、
最近よく来てくれる人も」
チュル
「いい仕事したな、ってやつっすね」
オヤジ
「たぶんな」
チュル
「でもクリスマスって、
もっと特別な日だったじゃないですか」
オヤジ
「若い頃はな。
プレゼント渡して、
イルミネーション見て、
ちょっと背伸びした飯食って」
チュル
「子ども小さい頃は?」
オヤジ
「プレゼント探して走り回っとったわ。
夜中にサンタ業務や」
チュル
「じゃあ今は?」
オヤジ
「『へぇ、もうクリスマスか』
それくらいや」
チュル
「冷めたわけじゃないですよね」
オヤジ
「違うな。
意味が変わっただけや」
チュル
「どういう意味っすか?」
オヤジ
「今年も、
ちゃんとここに立っとるな、って
確認する日」
チュル
「イベントって、
盛り上がるためのもんじゃなくて?」
オヤジ
「若い頃はそうやった。
今は区切りやな」
チュル
「その日をどう過ごしたか、より
その日までをどう生きたか」
オヤジ
「そういうこと」
チュル
「祝われなくなるわけじゃないけど…」
オヤジ
「祝われることを
人生の真ん中に置かんようになる」
チュル
「なるほどなぁ」
オヤジ
「それより、
場が回ったか。
誰かの時間を壊さんかったか。
火、消してへんか」
チュル
「火は目立たなくていいけど、
消えたら寒いっすもんね」
オヤジ
「誰もありがとう言わんでもな」
チュル
「でも人、集まる」
オヤジ
「それで十分や」
チュル
「オヤジ、それ寂しくないんすか?」
オヤジ
「いや」
チュル
「……」
オヤジ
「悪くない」
チュル
「最高の答えじゃないですか」
オヤジ
「何も手に入れんクリスマス。
何も失わんかったクリスマス」
チュル
「いい夜っすね」
オヤジ
「今年も元気に過ごせて、ありがたいわ」
チュル
「じゃあ最後に一言」
オヤジ
「今日も今日とて、やきとりです」