いつものカウンターで、常連のチュルさんが焼酎のお湯割りをすすっている。

炭火の煙が立ち上る中、ふと漏らしたオヤジの独り言から、今夜も会話が始まった。

チュル: 「オヤジ、なんか今日、顔つきが違いますね? 疲れてるような、でもスッキリしてるような。」

オヤジ: 「おう、わかるけ? 実はさ、今朝早くに娘を空港まで送ってきたんだよ。」

チュル: 「ああ、娘さん帰っちゃったんすか。それは寂しいっすねぇ。」

オヤジ: 「そうなんだよ。いつもなら運転したら秒で眠くなるタチなんだけどさ、今日は全然。離婚して一番可愛い時期を一緒に過ごせなかったからかな、今のこの一瞬が惜しくてさ。車の中で喋り倒したわ。」

チュル: 「へえ! どんな話したんすか?」

オヤジ: 「仕事の話とか、AIの話とかな。中でもウケたのが、2丁目のおかまの話よ。『般若のタトゥーちらつかせて筋肉モリモリのイケメンなのに、喋り方がオネェ』なんだって。ウケるよな。」

チュル: 「ぶはは! 筋肉モリモリでオネェ! それはキャラ濃いっすねぇ(笑)」

オヤジ: 「だろ? 娘はずっと笑っててさ。……でもな、空港で『じゃあね』って手を振った後のロス感が半端ないわけよ。帰りの車内、エンジンの音しかしないし。『ああ、今日は店休もうかな』って本気で思ったもん。」

チュル: 「まあ、そうなりますよね。で、予約はどうだったんすか?」

オヤジ: 「それがさ、昼過ぎに見たらネットも電話も予約ゼロ。『神様が今日はゆっくり寂しがれって言ってるんだな』って思って、掃除も仕込みもダラダラやってたわけ。」

チュル: 「なるほど、おセンチモードだったわけだ。」

オヤジ: 「そう! ところがだ。夕方何気なくネット予約見たら……目を疑ったね。『うっそーーん!』って叫んだわ。10名、5名、4名がいきなり入ってて、電話で受けた7名と合わせて合計26名よ。」

チュル: 「うわっ! 一気に!? しかも今日ワンオペでしょ?」

オヤジ: 「そうなんだよ! しかも来店時間がほぼ同時。『パニックの確変』確定よ。さっきまで『寂しい』とか言ってた口で『今日は死ぬな』って覚悟決めたもん。」

チュル: 「うわーー、修羅場っすね(笑)」

オヤジ: 「もう記憶飛び飛びよ。ドリンク捌いて、焼き鳥焼いて、配膳して。お湯割りのお湯なんて注ぐ暇なくて、お客さんが勝手に注いでくれてたし。『一人でやってんの?』とか同情されながらな。」

チュル: 「あはは、ツカサあるあるだ。」

オヤジ: 「でさ、その中に一人、俺の動きをじーっと観察してる若い男がいたんだよ。焼き場に入れば窓の外から覗き込んでくるし、まさに『ぶち抜くような視線』でさ。正直、ウザかったしプレッシャーだった。」

チュル: 「『まだかよ』的な?」

オヤジ: 「そうそう。でもな、不思議とそこで腹が据わったんだよ。『見てろよこの野郎』って。その視線のおかげで『寂しい父親』から『プロの焼き鳥屋』に引き戻された気がする。」

チュル: 「へぇ……! 逆に燃えたんすか。」

オヤジ: 「おう。なんとかやり切って、最後はその男も笑顔で帰って行った。で、片付けながら泥のような疲れの中でふと思ったんだよ。」

チュル: 「何をすか?」

オヤジ: 「もし今日、暇だったら俺どうなってたかなって。きっと誰もいない店で、娘がいない寂しさにどっぷり浸って、メソメソしてたと思うんだよ。」

チュル: 「あー……確かに。」

オヤジ: 「でも現実は、心の『空白』に26人が雪崩れ込んできた。神様は俺に寂しがる暇を与えなかったんだよ。『感傷に浸ってる暇があったら手を動かせ』ってな。」

チュル: 「深いなぁ。ピンチが救いだったってことすか。」

オヤジ: 「そう。『筋肉痛』が『心の痛み』を忘れさせてくれるように、今日のパニックがロス感を吹き飛ばしてくれたんだよ。あのウザい視線の男も、実は俺を救うために送り込まれた刺客だったのかもな。」

チュル: 「オヤジ、それ名言っすよ。筋肉痛は全てを癒やす!」

オヤジ: 「だろ? 娘も東京で戦ってる。だから親父もここで戦う。離れてても同じ『疲れ』を感じることが、今の俺たちの絆なのかもしれん。」

チュル: 「くぅ〜、泣かせるねぇ! じゃあ俺も、今日はオヤジの疲れに乾杯しますか!」

オヤジ: 「おう、飲め飲め! ピンチ上等。今日も今日とて、やきとりです!」