ここは指宿のとある焼き鳥屋。
今日も今日とて、カウンターの端っこには常連のチュルが座っている。
どうやら店主のオヤジ、今日はいつになく興奮気味のようだ。
33年連れ添った「相棒」との別れ、そして煙の中で見た「人の情け」について、熱く語り始めた……。
チュル: 大将、今日なんか店の中、冬なのに窓全開っすね? 寒くないすか?
オヤジ: おう、チュルか。寒いなら熱燗でも飲んで温まってくれ。実はよ……逝っちまったんだよ。
チュル: え? 誰が?
オヤジ: 俺の相棒だよ。この店の空気を33年間守り続けてきた、換気扇のヤツがな。おととい掃除してピカピカにしてやったばかりだってのに、突然、息を引き取ったんだ。
チュル: あちゃー、あのデカい換気扇っすか。33年って、俺より先輩じゃないですか。
オヤジ: だろ? 夕方から「キュルキュル〜」って、聞いたこともない断末魔を上げてたんだ。「頼む、今日だけは持ってくれ!」って祈りながら仕込みをしたさ。予約もパンパン、先輩方も来店予定。「どんと来い!」って気合入れてた矢先によ……。
チュル: まさか、ピークタイムに?
オヤジ: その「まさか」よ。一組目のお客さんの焼き鳥を焼こうとした瞬間、スーッ……ピタッ。まるで映画のスローモーションみたいに止まりやがった。棒で突こうがスイッチ連打しようが、もうピクリともしねぇ。
チュル: うわぁ、地獄……。焼き鳥屋で換気扇なしって、スキューバダイビングで酸素ボンベなしみたいなもんじゃないすか。
オヤジ: うまいこと言うな。まさに窒息寸前よ。顔真っ赤にして焦ってる俺に、カウンターの先輩たちが「どうした?」って声かけてくれてな。正直に「壊れました、ヤバいです」って伝えたんだ。そしたら何て言ったと思う?
チュル: 「今日は帰るわ」とか?
オヤジ: 逆だよ、逆! 「じゃあ、追加の焼き鳥と、地鶏の炭火焼きよろしく!」だとさ。
チュル: ブッ(ビール吹き出す)。鬼だ! あの人たち鬼っすか!? 地鶏の炭火焼きって、あのファイヤーするやつでしょ? 一番煙出るやつじゃないですか!
オヤジ: 俺も思ったよ。「これはイジメか? それとも俺への試練か?」ってな。でもよ、プロとして断るわけにはいかねぇ。「焼き鳥でビッグスマイル」がモットーだからな。腹括って焼いたさ。
チュル: どうなりました?
オヤジ: どうなるもこうなるも、店内は雲海よ。雲海。脂が炭に落ちてジュワッ! 煙ドカーン! 換気扇は死んでるから、煙は全部俺の顔面に直撃。涙と鼻水垂れ流して、ゴホゴホ言いながら踊り狂うように焼いたわ。
チュル: 絵面がひどい(笑)。
オヤジ: そしたら煙の向こうから先輩の声が聞こえたんだ。「俺たちのことは気にすんなー!」って。
チュル: ……かっこいい。
オヤジ: だろ? その時気づいたんだよ。「あえて一番煙が出るものを頼んで、俺に度胸試しさせてるんだな」って。焼き終わってビール出したら、「気張れよ。俺も頑張ってるから」ってボソッと言われてよ……炭の煙なのか涙なのかわかんねぇけど、目がしみたぜ。
チュル: いい話だなぁ。他のお客さんは怒らなかったんですか?
オヤジ: それが不思議と誰も怒らねぇんだ。「いい匂いだから嬉しい」とか「ライブ感あっていい」とか言って笑ってくれてな。帰り際には「面白かった、また来るね」って爆笑されたよ。
チュル: へええ、完璧な接客じゃなくても、人は喜ぶんですね。
オヤジ: そうなんだよ。俺はずっと思ってた。「ピンチはチャンス」だって。でも昨日の夜、ちょっと考えが変わったな。
チュル: なんて?
オヤジ: 「ピンチは、美味しい」
チュル: ……お? どういうことっすか?
オヤジ: トラブルとか欠点とか、隠そうとするからダメなんだ。さらけ出して、汗だくで必死になってる姿を見せれば、それは最高の「スパイス」になる。煙が焼き鳥をうまくするように、トラブルが客との絆をうまくしてくれるんだよ。
チュル: なるほどなぁ……。スマートじゃなくても、必死なオヤジさんの姿が最高のエンタメだったってことですね。
オヤジ: そういうことだ。だから新しい換気扇が来るまでは、この「オープンエア・スタイル」でいくぞ。寒さなんて、俺の炭火と情熱で吹き飛ばしてやるからな!
チュル: はいはい、わかりましたよ。じゃあ大将、その情熱を感じたいんで……「地鶏の炭火焼き」、一丁!
オヤジ: てめぇ、さては話聞いてなかったな!? ……へい、喜んで!! 煙まみれになっても知らねぇぞ!!
煙と笑い声に包まれて、指宿の夜は更けていく。 人生も焼き鳥も、ちょっと焦げてるくらいが、ちょうど美味しい。
今日も今日とて、やきとりです。